20240509

日記370

表情双六

2024/05/08 昨日
『フェイシズ』を見る。今回のカサヴェテス特集のなかで一、二を争う良い作品を最後に引けて幸運だった。チャイニーズブッキーを殺した男とオープニングナイトにも匹敵すると思う。タイトルコールからの十五分間がいきなり最高潮で、壮年をはみ出しつつある二人の男が向かい合って何をやっているんだという当然の疑問を置き去りにしてとにかく楽しそうに笑い合っていて、思わずつられ笑いに引き込まれた。最初唖然として、そのあと笑いがあって、最後に遅れてだがちゃんとやってくる哀愁があって、そのどれもがそれぞれ滋味深く感じられた。哀愁が尻切れトンボにならないよう、それこそ取ってつけたような場面転換のための破滅場面が後に続くのだが、それら全体を俯瞰で見たときにもう一度笑えるという良さまであった。男が女を笑わせようと何かを言ってみたり、女が男のジョークになんとか協力しようと面白く受けたりする様子には生きるか死ぬかの必死さがある。こういう場面に既視感があってしかもそれは画面越しによく眺めているものだということに気がついた。お笑い芸人が大変な思いをしながらもその才能をきらめかしている場面によく似ている。相手のために始めたことなのに相手を置き去りにして笑わせようという意図だけが先走って暴走するところなど、俯瞰して見ればそれはそれでやっぱり可笑しいわけで、そういう全体の構図が現今のお笑い芸人の姿勢や態度から感じられるものと相似していた。全編通して笑いに満ちあふれていたが(甘いのも辛いのも酸っぱいのも苦いのもあった)、なかでも一番笑ったのはラスト、朝方の再集合の場面で、男が精いっぱい格好つけながらボロボロになった女に自分の怒りをぶちまけるところだった。透かしたりせず、問い詰めたりもせず、癇癪のようなかたちで怒って見せるということのユーモアを感じた。これこそアメリカ的な良さだ。しかし自分としてはその良さについて愛とは言わずユーモアと言いたい。
あとは最初のジョーク合戦で「ヤセている幸せなやつより太っている幸せなやつのほうが多いから太っているやつは幸せだ」「ヤセの幸せは自分が太っていないと思えることだ」というやり取りがあってそのシンプルな世界観に笑った。
終映後、雨降るなかを走って帰る。セブンイレブンでカルピス飲料とラインで請われたビールを買って帰る。せいろで蒸した肉まんを食べながらダンジョン飯(チルチャック回)を見てねむる。

2024/05/09 今日
渋谷出勤のため普段より一時間多くねむれた。雨の中を神泉からすこし歩く。最低限間に合わなければいけない時間には間に合ったが、メンバーのなかで一番遅れての出勤になった。気まずかったので明日は三〇分早く到着するようにしよう。
昼休憩で道玄坂のリンガーハットに入る。野菜たっぷりちゃんぽんを注文して食べる。折りたたみの傘を忘れて店を出る。満腹後モリバコーヒーで『なぜ漱石は終わらないのか』を読む。
仕事が十六時すぎには終わる。リンガーハットで折りたたみ傘を回収して下北に戻る。いつもより早くスタバについて、『古事記ワールド案内図』『ナボコフ文学講義』を読む。『なぜ漱石は終わらないのか』を読了。文庫版の補章に山崎正和『淋しい人間』についての言及があった。専門家というよりはオタクふたりが漱石をさかなに楽しそうに喋っているという印象の対談だったが、読むべき漱石論について一応の言及があったことにほっとした。
「いわば自己の能力と闘って、自分を行動の禁治産者にしている」「そこにはじつに豪華な人間能力の浪費がある」という一節があり、それについて圧倒的な反資本主義だという。「資本主義/反資本主義」という枠組みで考えるのは耳目を集めるための方便だからそれはそれでいいような気もするが、単にそのまま「豪華な浪費」とするほうがイメージの力強さを感じられる結果を得られるものを、わざわざわかりやすくしてその代償としてスケールダウンさせているように思えて不満がある。これはこの本全体にも言えることで、ひょっとするとある程度から先の文学研究全般がそうなる運命なのかもしれないが、もともとは補助線を引くための優秀なペンとペン捌きで、勢い余って光の輪郭まで描き込もうとしたミスではないかと思った。粋じゃないことをあえてする「野暮の粋」というものを想定しているのかもしれないが、そこまで付き合ってくれるほど読者は暇ではないと思う。面白い小説でも読ませてくれるのなら話はべつだが、そういう気配はないし。「豪華な浪費」について金力のことではなく、時間についてそれをするというなら興味があるけれど、巷にいくらでも溢れているケチな浪費のひとつにすぎない。そんなことをするぐらいなら漱石の小説を読み直すほうがよっぽど豪華で良い。豪華ということにこだわっているのは反・反資本主義だと言われるかもしれないがこればかりはしょうがない。

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