20231214

日記261

帰り道

日曜から我が家で風邪が流行。私も月曜には引き始め、火曜には高熱で仕事を休む。水曜などはまだ熱が完全に引かないのにやるべき仕事のために在宅で仕事をし、仕事が終わったらすぐねむるという謎すぎる一日を過ごし、木曜になってようやく熱が引くも、喉の痛みが強くなってきて嗄れた声しか出せず、代わりに咳ばかり出そうになる。本当に毎年のように風邪を引く。二十代の頃は風邪なんか全然引かなかったので、今のこの風邪への冒されやすさには慣れない。飯の大盛りをついたのんでしまうのと似ているが、風邪の場合は毎回かかるたびに何もできない時間が多く発生してただただ切ない気持ちを味わう羽目にもなるし、実害がはるかに大きいので、もう自分は風邪を引きやすい人間なんだという自己認識でもってしかるべく予防に努めなければならない。
風邪を引いておかゆ中心の三食を三サイクルも回すと、鏡に映る顔がやつれて見えるというのは知識としてわかっていたことではあるが、今日出かける前の自分の顔はなかなか強烈だった。一日中仕事をさせられたあとだというのもあるが、若いときの細さとはちがう、やつれたと形容するのがぴったりの顔だった。若いときに頬がこけていると、そういう性質・体質なんだと思わせるところもあり、違和感というかその人がたくさん食べたり運動したりしてふっくらとしたときを想像してそこから引き算をしたような物足りなさもある。一方、年が重なって頬がこけていると、そこに違和感はない代わりに、枯れ木に水分がないのが自然に思えるようなおさまりの良さがある。それまでの自分を知っている自分じゃなかったら全然違和感を覚えない顔かたちだというのが自分にもわかるだけに、際どいところで強烈な違和感を感じる。違和感というか、鏡を見る自分自身の目から発せられる抵抗感だ。そのせいで余計に目玉ばかりがギョロつくように感じられもする。
風邪を引いているときにはつまらない動画ばかりを見て過ごした。それで自分は何もしていないことには耐えられないのだということを知った。じっとしてどこかに考えを飛ばすより、動画の切れ切れの瞬間に気を取られている方がラクだ。しんどいときには考えることが陰気になって寂しいことや不安の方に流されていくからできるだけ考えたくないというのは、無くもないが、実際より少しばかり高級なものの見方だ。実際は考えようという気がそもそも起きない。考えない状態でじっとしていようとすると、半自動的にスマホに手が伸び、いらぬアプリを開いて動画が流れるのに任せるということが起こる。考えるべきことはそれなりに多くあるはずなのに全部棚上げにしてしまえる。そしてあろうことか仕事などに手を染め、風邪のせいでただでさえ残り少なくなっている体力ゲージを消尽してしまう。もっと考えて一日を過ごすべきなのは明白なのに、とにかく考えないのはラクだから、とりあえずは風邪のせいにもできるしということで、いらんことだけをやって二日間を溶かした。
自分には頭の良いところがあって、そいつが全体を把握したりコントロールしているときには自分ながら大層心強い。だが、もともと控えめな奴だったのが最近ではよりおとなしくなっていって、全自分の中でのそいつの比率は降下の一途、存在感が縮退を続けている。こんなのは駄目だからやり直せと大声で言ってほしいと思うこともあるが、大声を出させておいて無視するんじゃないかという単純だがいかにも自分がやりそうな懸念が思い浮かぶ。
眠ってしまって夢を見るほうが起きていて面白動画を見るよりもよっぽど有意義だ。しかし寝付けない時間に何も見ないでじっとしているのはつらい。
寝ようとしてじっとしてるとき、何回か昔のことを思い出したりもした。
昔のことを思い出すのは夢を見るよりも有意義だ。ただ、夢を見るとき場合によってはそれが怖い体験になったり苦しかったりするのと同じように、昔のことを思い出すのも良いことばかりではない。そういったマイナス面も含め、思い出すこと自体良いことだというのは頭の良いやつの意見だ。そういう意見はしんどいときの自分からは支持を得にくい。
大学一回生と二回生の最初の方だけ仲良かった友人のことを思い出した。差し迫ったユーモアを感じさせる身体の小さな男で、交遊時期に比してよく思い出していてほぼレギュラーメンバーなのだが、今回は自分たちで作ったサッカーサークルに連れ出したときのことを思い出した。「テクニックとスピード!」と言いながらほとんど前に進まないドリブル(反復横跳びの要領で細かいボールタッチ)を繰り返していた。海外サッカーが好きで昼休みにサッカーをしている二〇歳の元帰宅部相当のサッカーの技術だった。(剣道部だったらしい)
今から思えばほとんど戯画化されているほど厭世的な人柄で、こんな変わったやつがいるんだと思ってぞっこんになったのだった。電車で帰宅するのがダルかったり不可能になったときにはよく彼の家に押しかけて泊まらせてもらったりした。いつも笑わされていた。
ある日完全に学校に来なくなり、それからしばらくしていっしょに入っていたサークルも大学も辞めて実家に帰ったらしい。電話をかけてそのことを聞いたがその後音信不通になった。猫背でとにかく細く骨ばっていて、無頼に憧れがあるのか飲めない酒を飲んで道端の電信柱と仲良くなったり、一旦喋る気になったら捲し立てるように喋りまくったり、やることなすことがすべて二十歳のわれわれからはいかにも天才的な振る舞いに映った。今はそうは思わないけど、当時ももしそう思っていなかったらもっと友達のようになれたかもしれない。少なくともやんやと囃し立てて一方的にスポイルする感じにはならなかったと思う。


2023/12/14 今日
在宅バイト。ザ行を一時間ほど。人からすこし詰められるようなことがあっても風邪を引いていると、だからどうしたそんなことよりこっちは体調悪いんじゃという気になって開き直れる。彼女は仕事のロケで前日深夜からロケバスに乗って静岡まで出かけていき、朝日を使った撮影風景が送られてきた。自分たち世代の男で知らない人はいないほどのビッグな芸能人と山頂風景の朝日を使ったCM撮影なので業界人感がすごい。身長が意外と一五八センチしかないらしい。
仕事後、四日ぶりに外に出てスタバにくる。すごく咳が出そうになるもすごく我慢して咳を出さないようにする。咳をしてもスタバ とか言ってる場合じゃない。

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