今年もあっという間に映画ベストテンの時期になった。今年は例年以上にのんびりできた一年だったのだが、若干のんびりしすぎの気味があり、映画も本も目標本数・冊数に未達で終わった。とくに本が壊滅的で、具体的な数をあげるのが嫌になる。トピックだけをいくつか書くと、
2021年の下期に発見した永井均を読み進めた
『失われた時を求めて』を読み始めた
『源氏物語』を読み始めた
という感じになる。いつかは着手しなければならない名作二本を読み始めることでバランスをとろうとしているのは明白だが、さすが古典名作だけあって、量はまったく読めていないのにもかかわらずリストにするとそれなりにみえる。『失われた時を求めて』についてはたぶん来年中に読み終わることはないだろうから引き続きのんびり読み進めていきたい。今年の新年時期にとうとうトマス・ピンチョンの全著作を読み終えたことで、「長い小説が良い、長ければ長いほど良い」という価値観が一時的に発生し、それに後押しされるかたちでもっとも長大で有名な同作に挑戦する気運が高まった。のんびりできる時期だったというのも大きい。
上記のほか初読の作者は以下
蒲松齢(聊斎志異)
濱口竜介(カメラの前で演じること)
アナトール・フランス(少年少女)
ゲルハルト・リヒター(写真論・絵画論)
カルロ・ロヴェッリ(時間は存在しない)
エイモス・チュツオーラ(やし酒飲み)
トーマス・ベルンハルト(破滅者)
セス・フリード(大いなる不満)
アンソニー・ドーア(メモリーウォール)
数冊続けて読んだのはカルロロヴェッリとゲルハルトリヒター、トーマスベルンハルトぐらいのもので、あとは一冊だけでやめてしまった。いつか二冊目を読むものもあるだろうがとりあえず次、と。円城塔は安定で追いかけている。ゴジラSPもそうだが、ネット媒体で出している小品集が面白かった。
読んだ本の話はこれくらいにして本題。映画のベストテンについて。
これまたのんびりしてあまり熱心に映画館に行っていない。が、勘所を押さえて絶対必要な作品は外していない。情報社会の荒波のなかでしかるべく情報制限をかけたり、どうやってもそれが不可能そうな場合には公開初日を狙うなど、いよいよ作品選定とタイミング判断に習熟してきた。
映画のベストテンは見た順で、
偶然と想像
スパイダーマンノーウェイホーム(初日)
シンウルトラマン(初日)
ベイビーブローカー(初週)
リコリスピザ(初日)
NOPE
RRR
グリーンナイト(初週)
THE FIRST SLAMDUNK(初日)
上記9作品になった。おもな選外はバットマン、死刑にいたる病、ドクターストレンジ、犬王(初日)、FLEE、ザ・ロストシティ、ワンピースRED、ブレットトレイン(初日)、ザリガニの鳴くところ。
どれも退屈な映画ではなかったけれど、ベストテンに入るにはやや見劣りする。あとはホワイトノイズを見に行くつもりなので、それでベストテンがぎりぎり成立するかどうか。
あと、こうやって書き出すと、いくらなんでも初日に見に行けている作品が多すぎる。慣れとかではなくて、たんに暇があったから気になっている作品をすぐ見に行けただけじゃないかと思われる。
ベストテンの順位とそれぞれのひとこと感想を書く。
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1位 リコリスピザ
映画として一番楽しめたという基準で、堂々の1位に選出された。上位になればなるほど、あとは好みの差ということになりがちだが、まんまそのとおりで、私にとってどタイプの映画だというのに尽きる。
2位 RRR
文句なく面白い。好きな映画かどうかと自問してみると好きとはならないのだが、威力が高すぎて、好悪の感情をぶっ飛ばしながら2位にまで上り詰めた。私にとって似たような位置にあるのがマッドマックスだったのだが、ちょっと馬力がちがうという印象。前輪駆動と4WDとの差と言ってもいいかもしれない。車のことはよくわからんのだけど。あとIMAXシアターに感謝。
3位 シンウルトラマン
私にとってウルトラマンというのはバルタン星人と切っても切り離せない作品だったのだが、どこか懐かしくそれ以上に新しい、最高のわくわく体験をさせてもらいながらバルタン星人のバの字も思い出さなかったすごい作品。何度も見たいと思うような作品ではないが、一度見たら忘れられないし、それで十分だと思わせられる。遊園地にある目玉ジェットコースターのような存在感であり、その期待を裏切られなかった。
4位 NOPE
ジャンル横断的でかつポピュラー映画でもあるという挑戦的な映画でかなり好きだった。IMAXに感謝。
5位 スパイダーマンノーウェイホーム
いわゆるファンムービーなんだけど、スパイダーマンスパイダーバース以降スパイダーマンのファンになっていたため存分に楽しめた。
6位 ベイビーブローカー
最近とくに、映画館でみる映画に迫力とか感覚面での充実を求める傾向があったので、こういう丹念な人物造形を土台につくられた丁寧な映画をじっくり見ることの価値が自分のなかで上がっている。くわえて、白黒つけないこと、簡単に白黒つけられないことを、しっかり映画としてみせていくのはそれだけで価値がある。作家性をもってそれを維持しながらも、暴力シーンに挑戦しているところなども評価するべきポイントだと思う。
7位 THE FIRST SLAMDUNK
公開前に情報を出さないやり方に乗っかって、何も知らないまま初日に見に行ったことでテンションの上がり幅が最高になった。対戦相手が映画内で公開されてから、くるぞ花道のアリウープとどんどん心拍数があがっていって、それが最高潮に達したときにかました最初の得点はやはり最高で、その余韻にひたりながら深津の得点を見るのがまた良かった。
偶然と想像(順位つけられず)
濱口竜介。この作品をはじめとして、その後特集上映で見たどの作品もこれまで見たことないほど良く、もう映画は当分見ないでもいいと思った。これ含め特集上映の作品全部が今回の1位のうえにあると言ってもいい。結局、映画に映っていて一番見てしまうのは「人」なのだった。怪獣とか絶景とかクライムシーンとか見て楽しいものはいろいろあるけど、見て一番楽しめるのはやっぱり人。私自身の好みとしても元々わかっていたことだけどはっきり再認識した。絵画は肖像画が一番好きだし、映画はポートレート映画が一番好き。群像劇もきれいな模様としてというよりは複雑なポートレートとして見たい。
グリーンナイト(順位つけられず)
これも順位がつかない。偶然と想像は面白いといえるけど、グリーンナイトは面白いのかどうかもよくわからない。絵本を読んでもらった小さな子どもがそれを面白いと感じられないのに似ているかも。色の印象のように感覚でしかないものを直接知覚させられた感じがある。しかも刻み込まれた感じで、忘れるまでずっとあるという気がする。忘れても忘れないのではないかという気もしていてちょっと気味がわるい。
何が良いことにつながっていて何が悪いことに結びついているのかわからなくなる場所で、迷子になってさまよう不安を主観で体験させる映画だった。道標も地図もある、しかしそれが何なのだと言われると、道標も地図もないときには存在しないべつの不安が萌すことになるが、その不安。
不安だけでなくどんなことにでも言えることだが、知っているのと感じるのとはべつのことだ。この映画は知らせるほうではなく感じさせるほうに特化している。
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映画の感想を書くということがあまりできていない一年だったが、ベストテンをきっかけに考えてみて、まあ仕方なかったのかなと思えるようになった。感覚優位で楽しんでいるという傾向はどんどん増えるし、見てすぐの段階であれはこういう感覚だったとそれらしいかたちにまとめたくない。放っておくと次第に忘れていくことになるが、忘れるか忘れないかぐらいのときに思い出しながら受けた印象を拾っていくのがいちばん良いやり方のように思える。
だから恒例行事化して一旦スルーしたものを振り返る時間を持つようにするのはやっぱり良いことだ。