対戦相手にも恵まれていた。勝つ確率を上げるのは難しい強い相手だったけれど、決して勝てない相手というわけでもなく、結果、良い目が出て、あきらかに格上のチームに勝つことができた。
格上にも伍するだけの実力がついた、ではない。
クロアチアに勝ってベスト8に進み、圧倒的強者のブラジルと戦えるという経験ができなかったことが悔やまれる。チーム目標として掲げ「ベスト8に進出したい」と言っているが、その価値については正直よくわからない。べつのグループステージを勝ち上がってベスト16に進むよりも、ドイツを蹴落としてベスト16に進むほうが難易度が高く、それらが同じ結果だとは思わない。前大会より一歩前進したいという目標としてベスト8を捉えているとすればそれは達成されたと考えていいはずだ。
対戦相手に恵まれていたというのは、格上だが戦える相手が2チームも同じグループステージに入っていたことだ。そしてその格上がブラジルではなかったことだ。勝てないと思っていたドイツやスペインに勝ったあとでも、やっぱりブラジルに勝つことは全然想像できない。ブラジルはさらにもうひとつ格が違うと感じる。ドイツやスペインがブラジルに勝てないとは思わないが、それでもブラジルが勝つというイメージが先行する。ドイツがブラジルをけちょんけちょんに倒した過去を踏まえてみてもそのイメージが崩れないのだからちょっとすごい。あくまでイメージの話なのだけど、ここでいうイメージの話は、イメージの話だけで終わるようなものでもない。そのイメージを作り上げているひとつひとつのプレーがあり、そのプレーをみせる選手がいて、その選手たちが集まってチームになっているのだから。あれだけ高いレベルでのイメージの共有というところへ行くまでにはどれだけ距離があるのかちょっと計り知れないぐらいだ。
本当を言うと、実現可能かどうかというのは置いておいて言うと、目指すべきなのはブラジルだと思う。ノックアウト方式のトーナメントで、貴重な一点を奪われながらも、サッカーのプレーとして魅了されるようなゴールに感嘆するような体験ができれば良かったのにと思う。一切皮肉ではなく韓国が羨ましい。
今回の日本チームが見せた、耐える時間を耐えて、攻める時間に一気に攻めるというのは、結果的にも正しいし、エンターテインメント性も十二分にあった。二度の格上相手への逆転劇には、他にはちょっと記憶にないぐらい興奮した。ジャイアントキリングと言っていいと思う。
でも、もし良い目が出ずにそのまま敗退していたらと思うと、結構な博打のようにも感じてしまう。好き放題にやられる前半に失点しないこと、後半攻勢をかける時間にしっかり得点し逆転すること、そのハードルは、こうやって実際に飛び越えられたあとでも、また飛ぶのにはちょっと高すぎる。
今回の日本代表が過去最高の代表チームだというのは結果が表していることだと思うが、以前の代表チームにはきれいなパスワークで自分たちのサッカーを表現しようという野心があった。
2022年時点では今回のやり方がとてもうまく行ったと思うが、このやり方では限界がある。一生懸命とか、勝利を目指して、ということだけでは絶対に辿り着くことのできない先がある。たかがサッカーだという視点をもって遊び心を発揮しないといけないはずなのに、やたらと真剣勝負を煽り立てるのは可能性を閉ざしてしまうことだ。あえてそこに目をつぶって今最高のパフォーマンスを発揮しようとした姿勢にはリスペクトを抱きつつ、シリアスへの傾斜がきついメンタルでは脆さが出る場面もあるということは、大事な教訓であり反省すべき点だ。思いの強さが裏目に出るような場面では、思い切って思いの強さをないものとしなければならない。そんなの無理かもしれないけど、チームの雰囲気の持って行き方などである程度は調整できるかもしれない。
4年後というよりはこれからの4年が大切なので、たとえ最初は結果が出ずとも外国人監督を招聘するべきだ。うまく行かずともバックアッパーとして森保さんが控えていてくれるとすれば安心だし、少なくとも2年間はべつの監督を起用して挑戦すべきだと思う。