20221124

日記52

『源氏物語』をちょくちょく読み進めていて、すでに中巻に差し掛かっている。今日は「篝火」を読む。娘ほどに若い玉鬘への光君のアプローチは完全にキモがられていて取り付く島もない状態だったのだが、強がりなのか何なのか、ひょっとすると余裕しゃくしゃくということをアピールしたいのか、光君は玉鬘に惹かれる若い男たちの手紙を勝手に見たりして、玉鬘に「ちゃんと返事書いたりや」などと助言している。こんなおじさんは嫌だという大喜利題を地で行っているようにしか見えないが、そこはまあ絶世の美男ということで免罪されるようである。いい加減そろそろわりと難しくなってきている、というかさすがにもう難しいようだが、まずは失点して徐々に挽回するといういつものパターンに入っているようにもみえて空恐ろしい。
なぜかここには書いていないが「ちゃんと返事書いたりや」ということを言ってしまうということについてすごく気持ちがわかるところがある。単純な利害を越えて良し悪しをアドバイスしたいという感情には身に覚えがある。もちろんそのことで遠回しに利益を得ようとしてのことだ。婉曲迂回ルート的にさもしい。俯瞰したときに浮かび上がる線を見るとそう思う。

『失われた時を求めて』の4巻を読み終える。3巻と4巻が「花咲く乙女たちのかげに」という副題なのだが、それにふさわしい展開が4巻の後半になってようやく出てきた。ずっと蕾状態が続き、ある朝突然ぱっと花開くように鮮やかな印象を残した。語り手の「わたし」は、自己言及するときに自分のことを守ろうとして煙に巻こうともせず、かといって必要以上に露悪的にもならず、正直な語りをずっと続けているので、恋愛に関する洞察部分がとくに面白い。率直で開け広げだから一歩間違うとシニカルな態度とも捉えられかねないが、ここまでのところは過去の燃え盛った恋愛に対する冷笑的なまなざしは一切ないように思える。気恥ずかしさから反省の目を厳しく向けて、あのときの行動は駄目だったと安易に総括したりしないところに真摯な姿勢を感じさせる。何に対して真摯かといえば、対象たる過去と、見る主体たる現在に、ということになるかと思う。ありのままを写し取ろうとする写生画家のスタンスに近い。みっともなさに耐えることができるのは、今を起点にしたとき、対象がそれだけ遠いところにあるからだろうか。それにしても「思い出す」ということをすると遠いままではいられず、安心な距離を保てないはずだが、これだけ活写しておいてあまり動じていないようにみえるのはなぜなのかというひとつの宙吊り事項があらわれた。この先に、達観というか見切りというか腹の据わり方というか、その原因が語られることになるのかと思うと先が気になる。
『失われた時を求めて』は一年後のいま思い返してみても面白かった。途中で読まなくなった理由は自分で小説を書き始めたからだが、書き始めた小説はまだ完成していない。その目処も立たないし、五合目なのか六合目なのかどこまで進んだのかもわからない。まったくの見通しゼロ状態。『失われた時を求めて』を再開しても良いぐらいだ。そうしようとは思わないが。

今日は日中暖かい日で、この秋という季節の素晴らしさを感じさせた。今年の秋は長く、その魅力を存分に発揮している。天気もそれほど崩れずに晴れる日が多いし、暑くなくなってから寒くなるまでに相当の期間がはさまれていて、ごく控えめに言っても超最高だ。
今年の秋もここまでのところ存分に秋状態をキープしてくれていて超最高だ。こんなに良いときが続くのはとても良いことだ。どうにか瓶詰めにして保存しておきたいぐらいだ。


そういえば昨日はドイツ戦があった。前半に絶望した分、後半に爆発した試合展開もあいまってつい絶叫してしまい、今朝起きたら声が飛んでいた。
じつは私は大迫原理主義者だったので、代表メンバー発表時には浅野の選出にちょっとした疑念をさしはさんでしまったのだが、私が間違っていた。
あの逆転ゴールで見せた3タッチは浅野にしかできない特有の輝きで、肉食獣のしなやかさを思わせる美しいゴールハンターぶりだった。単純にサッカーのプレーとしても最高峰のものだが、あれだけの大舞台で披露するとなると巡り合わせも必要で、単純にただのスーパープレーとは呼べず、「歴史的な」と形容するしかない出来事だった。
身体がぶるぶる震えるのを抑えられないほど興奮した。抑える気もなかったが。ああいうプレーでゴールを決められるサイドを応援していることだってあるわけで、決める側を応援できていたのだって五分なのだから、僥倖と言わなければならない。
こういうことを言うのは大げさなようで全然大げさではない。自分の胸にきいてみればわかる。
この気持ちはよくわかる。サッカーは面白い。ワールドカップは面白い。「うわあああああ」という叫びがあとから自分の耳から認識される状態というのは「声を出す」の最上級だと思うがそれがあった。この一年、これ以降にもいくつかあったんだろうと思うが、記憶に残るようなそれはこれ一回きりだったかもしれない。いやそんなこともないかな。まあこんなふうに日記を読み返していけばわかることだ。

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