そして誰が裏切るのか
2026/10/22 一昨昨日 9894
新宿で家人と合流し、ねぎしで晩飯を食べる。映画『DIGGER』はその仕掛けも含めてたいそう面白く、感心させられた。演説の迫力で内容に問題があっても説得力を持たせることができ、それによって社会が過った方向に進むことがあるというのを映画のなかで説得的に演出していて、監督の力と俳優の力が渾然一体になった素晴らしさがあった。トム・クルーズの演技力というものを超え出た”説得力”のようなものは、単に彼の人格という観点だけからは説明のつかない社会的な肖像の域に達していて、「いったい誰がトム・クルーズなのか」という疑問をトム・クルーズ自身を巨大なスクリーンで目の当たりに見ながら抱かせる。しかもその疑問を不自然なものに感じさせずにまっとうな疑問だとさえ思わせるような不思議な肖像が出来上がっている。そしてその疑問の起点になっているのは入れ子状の演劇構造なので、演出上そう見せたいという明確な意図があり、その設計通りに人物像が的確に構築され、要所に置かれた彼らが演出意図の通り(またはそれを一切阻害しないかたちで)精確なパーツとして振る舞っていることにいつしか感動させられることにもなった。とくにジョン・グッドマンは怒れるイカれアメリカ人を演じさせると右に出るものはいない。個人的にはこの映画のひとつめの大きな仕掛けが明らかになって以降に「あれ、これジョン・グッドマン?」と気づくことになり、ひとつめのものと遜色のないほどの大きな衝撃を受けた。『DIGGER』は、プロパガンダという言葉が生まれるよりはるか以前に”物語の力”というものはこの世界に存在しており、それが多くの人間を動かしてきた結果としてこの現在があるということを認識させることの非常に上手な映画で、映画が映画としてこの社会の中にあることの意義をものすごく雄弁に語りかけてきたという点でもアメリカ的な映画だった。ジョン・グッドマン扮する時の大統領がその世界観の代表者として「中国こそがもうひとつの癌だ」と叫ぶシーンはドのつくほどの直球でかつアホらしく、しかも日和るということをしていないので、言っている内容の正不正に関係なく痛快でならなかった。なお、独我論をとなえる大統領ほど恐ろしい存在はないと思っているが、それのシリアスなバージョンが実際現在ロシアにいるのではないかと考えると、そんなことはちょっとも考えたくないほど恐ろしいことだ。健康であることは重大事だ。ただの痔でさえ彼を回避してほしい。
家人と帰りがけにこの映画について感想を話し合うなかで彼女の意図を受け損ないまんまと機嫌を損ねてしまった。最後のシーンで演劇の外の世界が明示されるのがよかったという彼の意見に対して、我の意見は暗示にとどめても十分なのではないかというものだったので、そこの差をただの差として提出すればいいものをお互いに自分の感じ方を曲げたくないので生硬なやりとりになってしまったのが小競り合いの主原因だったと思っている。マスクの代わりに我々は板状の端末を各々取り出しつつ、映画館から外に吐き出されていった。新宿TOHOで映画を見たので外は23時すぎの歌舞伎町。見慣れてはいるもののこれもなかなかにSF的な光景で映画の余韻として申し分なかった。
向こうの不機嫌もありこの日は酒を飲まずにいられた。火に油を注ぐことになってもつまらないと思い、早めに就寝。
2026/10/23 一昨日 3169
一日在宅。NBAを見る。午後から出社しようかとも思ったが気乗りしなかったので止めにした。終わりがけになって至急対応とかでコールがかかる。電話口で「事の重大性がわかっていますか」と言っていた。わかっていない体で受け答えし即時対応については要求を呑んで対応したが、しっかり考えれば考えるほど大した問題では全然なかった。1時間半ほど残業をしたあとで稽古用のセリフを覚えるための練習。ガレージバンドで録音しつつ自分の声と掛け合い。そのほか『暗夜行路』を読み進める。一時間とすこしぐらいやってから酒を飲むためにコンビニに出かける。
2026/10/24 昨日 2358
朝からNBAを見る。『暗夜行路』を読む。ぎりぎり読書会開始前に前篇を読み終えられえそうだったのだが昼飯後の昼寝が想定の3倍延びてしまい、第二の11までしか読み終わらなかった。ぎりぎり10分前に最後の場面を中心に流す。ややもったいない読み方だと思ったが、志賀直哉の暗夜行路にそこまで気兼ねしていたら気ばかり遣って大変だと思い直す。
読書会はやはり面白い。人との読み方のちがい、共通点が浮き彫りになるというのは自分の読み方に座標を得ることでもある。芥川の短編集のほうはたったの3作しか読んでいかなかったのでこちらは惜しいことをした。未読のなかでは『竜』が面白そうでとくに興味を持った。竜之介という名前の男が書く『竜』という小説には興味があるというのがひとつ、奈良の猿沢池が舞台になっているというのがひとつ。
酒を飲み飲み読書会の第2部に21時まで参加。その後、仕事帰りで喉をいわせた家人と映画を見る。『立ち上がる女』が面白くなりそうなところで眠いから今度にしたいという申し出。軽いものをさがすうちに『アリス』というチェコのアニメ映画を見つけたのでそれを再生する。チェコの1980年代の映画で、面白いところもあったが眠かった。そうこうしているうちに布団乾燥機の稼働が終わったので寝にかかる。
2026/10/25 今日 1998
朝からNBAを見る。週末の試合はクラッチゲームが多い印象。クラッチゲームというのは5点差以内で終盤を迎える試合のことらしい。ここという場面で決める能力やここという場面で止める能力というのはいかにも最大フルパワー中のフルパワーという感じで見ているだけなのに力が入る。そう考えるとクラッチゲームかそうでないかによって観戦の質は大きく左右されるわけで、週末にクラッチゲームが多いのは何らかの調整がなされていると考えるのが自然だ。そもそも”プロバスケ”なのでその部分についてとやかく言うつもりはないが、「裏切られた」というような初心なリアクションをすることのないよう心得ておこう。
休みの日に家でNBAを見ていても仕方ないので家を飛び出てスタバに行く。『暗夜行路』の読み残しを消化し、芥川の短編集のうち『邪宗門』を読んでから日記を書く。